ぴこのねごと

さあ、つかの間の現実逃避へ。 旅とフラと時々経理の話

経理社員は見た ~甘いお菓子に群がるのは?

 「あの人はお金を持っているぞ」または「持っていそうだぞ」などと認識されてしまうと、その人に様々な人や情報が寄って来るのは世の常。集まってくるのはいいものだけとは限らないのが、悩ましいところ。

  

 いくつかの会計事務所や事業会社内の経理部に勤務して12年以上、経理の立場から会社の数字を見ることで生活しています。10年そこそこのこわっぱが何を偉そうと不愉快に思われる諸先生方、先輩方もいらっしゃるかもしれませんが、自分の経験を話したいなと思っただけで、他意はありません。偉そうに語っているつもりも無いのですので!

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    さて経理や簿記、会計、決算書、税金なんて言葉に拒否反応がある方々がいたり、経理は経費精算書を早く出せと威張っているだけだと煙たがられたり、とにかく経理部は嫌いという意見もあります。回りに疎まれる仕事でへこむこともあるのですが、数字の動きはなかなか面白いのです。数字の動きのルールさえ見抜いてしまえば、名探偵よろしく会社が何をしたか、社長がどうしたいか、何をしたのか、推理ができます。

 

    預金から現金引出し20万円、時間外手数料がかかっている、他の通帳や小口現金出納帳に入金履歴なし、(きっとあまり人に言いたくない支出なんだろうけど)何に使いましたか?なんて人のいないタイミングでこっそり聞くと、ぽろっと女子がちやほやしてくれるお店の領収書が出てきたりします。そんな時は、内容によりますが、そっと小口現金出納帳に記入して、交際費で処理します。

 

 文系、飽きっぽい私が、こんなにも長い間会計事務所・経理部界隈で働けている理由は、ひとえにその数字から読み取れる様々なストーリーに魅せられているからです。

 

 急に売上が伸び、現場のみならず、今まで片手間にこなしていた社内の経理・人事・総務が大混乱をきたすそんな折に、悪意ある人が忍び寄ってきます。善意の人も近づいてきているのですが、善意の人のいうことは何せ耳障りが悪い。「一度売上を増やすのをやめて、組織を立て直した方がいい、事務作業が回るようにフローを作った方がいい」など何とも夢がない事ばかり助言します。せっかくこれまで大変な思いをして事業を育ててきたのに、売上を増やすのをやめるなんて、正気の沙汰じゃない!と社長や役員に煙たがれることが多いので、結果その会社のためになる助言をする人々は、疎遠になってしまいます。

 

 持ち込まれる話として個人的には、1.会社の経費になるからと勧められる高価な買い物2.節税対策3.投資話が多いと考えます。全て会社のお金を使って、お買い物しよ~というものです。節税にもなるし、いい車乗れるし、いい場所に住めるし、投資して本業とコラボで稼いじゃいましょうという、甘くて耳障りがよいお話が多いのです。

 

1.会社の経費になるからと勧められる高価な買い物

その1:新車(高級な外車)

 当時、この本を読んでかなりの衝撃を受けました。

なぜ、社長のベンツは4ドアなのか?|フォレスト出版

 ざっくり言うと、ベンツ、4ドア、中古で購入と条件が揃うと、車の取得価額を早く経費にできるため、節税対策になります。

 

 ただ、急激に大きくなった会社の社長は、新車を買いたがることが多い。そして税金の知識がほとんどない社長に向かって、車のセールスマンは、「法人税を支払うなら、費用にもなりますし、車を購入することにお金を支払った方がいいですよ」とささやきます。その事業内容で、ポルシェ何台必要なんだと固定資産台帳に入力しながら思うこともあります。

 

 費用になるのは嘘ではありませんが、期末に慌てて車や機械装置、家具などの固定資産を購入すれば、費用にできるのは、たかだか1か月分の減価償却費と微々たる諸費用のみです。何かの原因で納期が遅れて、事業に使用するタイミングが翌期になれば、それを取得した事業年度の費用にすることすらできません。(消費税は少し有利かもしれませんが、話が複雑になるので、法人税のみ考えています。ローンの支払利息も無視しています。)

 

その2 社長の美容、健康維持のための〇〇 

 個人的には、黒に近いグレーだと思っています。社長が有名人だったり、テレビや雑誌に出る必要がある場合、リスクを説明したうえで費用に入れたり、入れなかったりします。税務調査の時には、税理士さんの腕と調査官の経験値によって白黒がつく費用です。

 

 フィットネスマシーンを購入して、会社の固定資産にしたりするケースもあります。物は社長の社宅兼オフィスにあったりするので、社長しか使用しなさそうに客観的に見えます。ただ社長しか使用しないのに、会社の資産としているとなると、少なくても減価償却費部分が、社長の給与だと捉えられる可能性があります。本当に社員が使用していると主張できる書類や証拠の準備が求められます。

 

 テレビ通販に出演する女性社長は、海外でうけたリフトアップなどの施術費用を個人の確定申告時に医療費控除に含めていて、「これは治療だ。テレビに出るから絶対必要な治療だ」と主張して譲らず、担当していた税理士さんが、大変そうでした。

 

その3 高級スーツ

 先生業をしている先生が、仕事以外ではスーツは着ないのだから、これは会社の経費だと言って10万円以上のスーツの請求書を入れてきた時は、リスクを説明の上、会社の固定資産として固定資産に登録したりしました。

 

 余談ですが、かなり前に、昔ブレークした有名人の方の経理を担当していた時、ユニクロのレシートに衣装代と書いてあって、 ちょっと切なくなったことを思い出しました。

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2.節税対策 

その1 社宅

 社長や役員のために会社が社宅を契約した時にも、節税の効果があります。詳細は省きますが、通常ならば、会社はその社宅家賃と付随する諸々の費用を会社の経費にできます。

 

 税法に基づいて処理するならいいのですが、ちょっと会社の売上が上がったからと言って、すぐにグレードアップした社宅に住んでしまう社長や役員がいます。税法上、豪華社宅としてとらえられてしまう様な、広すぎる社宅やプールやジャグジー付きの家に引越してしまうと、規定が使用できなくなり、節税対策が全く意味のないものになってしまいます。引越しを決める前に相談してもらいたかったと涙で枕を濡らす日もあります。すみません、言いすぎでした。

 

 自分の住んでいる家に簡易ベットやついたて等を準備し、社員が使用できる社宅風にカモフラージュし「社員がみんな泊まれる、いつも泊まっていると主張するから、家賃を費用にしろ」と言われたこともあります。どこで悪知恵を得てきたのかといつも思っているのですが、社長仲間や無責任な税理士が悪知恵を授けたりするみたいです。

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その2 長期平準定期保険

  定期保険の中でも特に長期の保険期間を設定するものを言い、その特徴は、保険期間が非常に長く、終身保険に近い死亡保障が得られます。解約返戻率が高くなるため、役員退職金の準備としても活用されることが多いです。

 

 昔はこのような保険が全額費用にできたのですが、今は半額しか費用になりません。 年額が大きい保険が多いし、支払った額を超える返戻金が出るのが、5年以上先だったりするので、急激に成長した会社に継続して支払える現金があるのかが疑問です。保険を解約し、保険金が入るタイミングで役員への退職金として支払うことで、最大のメリットを生むものなのだと思うので、行き当たりばったりに契約してもお金が外へ出ていくだけで、その効果も疑問です。

 

 日本の昔ながらの貸しビル業とかで、修繕費やお客さんの契約更新タイミング、敷金の返金のキャッシュフローがきっちり分かっている安定している会社じゃないとあまり意味がないのかなと思います。今や大きな地震が何時あるのか分からないので、それも揺らいできていると思いますが。

 

その3 役員報酬社会保険料所得税の節税

  事前確定届出給与の規定を使って、毎月の給与を社保の月額の最低額に設定し、届け出した金額を決められた時期に支払うというスキームです。社会保険料を節約できて、源泉所得税も減ります。この規定がかなり厳しいし複雑なので無計画ではなかなか実行できません。

 

 外国人社長達に多いのですが、将来もらえる年金とかは全く考えていないので、社会保険料を最小限にしたいという意見が強固で多いです。厚生年金に限って言えば、将来のためだけのものではないので短絡的に考えられないし、あと、普段の生活費はどうするのかと心配になります。急にお金が手に入った社長は、お金の使い方が見栄っ張りで派手、いままで我慢していた反動もあり勢いが止まらない人が多いです。

 

3.投資話

 ジョイントベンチャーを作らないかや観光地に美術館やホテル、レストランを作らないか、海外に店を開かないかなどのお誘いが舞い込んできます。こんな話を持ってくる人は、本当にプレゼン上手です。全てが悪い話ではないのですが、契約条件については慎重に検討すべきだと思います。一度走り出してしまえば、途中でやめるには時間と費用がかかるからです。

 

 よさそうだと思って、共同出資で会社を作り、日本にお店を開いたものの、当初予定していたより商品知名度はなく、売上は上がらず、自分の会社からの持ち出しが増えます。実店舗を構えるということは、敷金の支払いや工事費用、従業員の採用・教育等、初期費用と人工がかかります。契約により日本でのオペレーションを一切手伝わないのに、財務諸表を見て、売上が少ない、経費が多すぎる、という相手の外国法人に翻弄されて、好調だと思った自分の会社も売上が下がり、じり貧という会社も見てきました。

 

 そうして、食い散らかされた会社には、社長と借金しか残らず、冷たい風がひゅうと吹きます。

 

【最後に】 

 悪意ある人が寄ってくると書いてはみたものの、社長が悪意ある人を引き寄せてしまうのかもしれないとも思います。大変な思いをして事業が軌道に乗り、利益が出始めて、繰越欠損金が消えると、途端に法人税が発生する。また消費税の納付が増え、四半期ごとや毎月、税金納付が生じることとなります。固定資産が増えれば、固定資産税や償却資産税、自動車税の納付、社員や事業所が増えれば、事業所税の納付、税金納付のオンパレード。それを魔法の様に解決してくれる、有象無象にすがりたくなるのも分かります。「税金を支払うなら、代わりに〇〇を購入/契約しませんか」という甘いお菓子には十分注意が必要です。

 

 税金に関して言えば、税金を必要経費と捉えるか、お上に徴収される無駄金と捉えるかで、会社の規模が大きくなるかどうかが決まるんじゃないかなと経験的に思います。ここを乗り越えて大きくなった会社も見ているので、この認識が分水嶺なのかもと思います。

 

 お金を持っている社長や役員の話で他人事だなあと思っている方々も多いかと思いますが、SNSの普及により一夜で有名人になる可能性もあるし、 消費者金融から簡単に個人でも借金できるこのご時世、いつ何時悪意ある人があなたに近づいてくるか分かりません。 

 上記で上げたような話を持ってくる人や自分では理解できない契約への対応は慎重に。虎穴に入らずんば虎子を得ず、というのなら、失っても生活に影響が出ない範囲でやるなら話のネタになるのでいいのではと思います。

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【注!】本文中に挙げた節税対策等は、税理士さんや税務署に確認の上、ご自身の責任で実行されてください!損害が生じても、当方では一切の責任は持てません。


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