ぴこのねごと

さあ、つかの間の現実逃避へ。 旅とフラと時々経理の話

熊野古道 小辺路 雨の伯母子峠越え Day3

「明日の天気は、雨だね」

 

農家民宿山本のご主人の一言で私は凍り付いた。とてもおいしい夕飯をいただいて、奥さんと同行者と歓談している所だったのに。

 

雨の中、ゴワゴワの雨具を着て歩くことは、「八甲田山の死の行軍」を私に思い出させた。今から考えるととても大げさだが、その時の私は「詰んだな」と思った。何とか2日間歩くことができたが、これまでの道のりを考えると、天候にも大きく助けられていた。

 

「すいません。明日、雨だったら、バスで到着地まで行ってもいいでしょうか」

 

素直に皆に不安の気持ちを伝えた。気を使いすぎて自分の意見や気持ちをなかなか言えない今までの自分では、ちょっと考えられない行動だと思った。でもこのいい人たちに迷惑をかけるわけにはいかない。

 

その弱気発言を受け、明日の行程で「大変な山道の部分」や「雨が降り始めるかもしれない時間にどこまで歩いていれば大丈夫か」を話し合い、本当に土砂降りならば歩くことはできないからと明日の朝の天気で決めようとなった。話ができたことで、とても安心して、寝る頃には濡れても大丈夫なように荷物を包みなおして、歩く心の準備ができた自分がいた。

 

ついに朝が来た。外を見れば、曇りで雨はまだ降っていない。天気予報を確認すると雨は午後からの予報になっていた。今日の工程は、伯母子(おばこ)岳登山口から大股バス停までの15㎞、所用時間6時間30分の予定。

 

2日間歩いてきて、大変そうな山道が分かるようになってきた。今日は比較的なだらか道のりだが、伯母子岳登山口から水ヶ元茶屋跡までの上り坂がなかなか大変だと高低差で分かる。最初の1時間30分くらいの登りを頑張れば、後は1,246mの峠まで登るだけだ。下りも緩やかに見える。

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伯母子岳登山口 大股

出典

水ヶ峰(奈良県野迫川村)~三浦口(奈良県十津川村)~柳本橋(奈良県十津川村)|和歌山県観光情報 公式サイト わかやま観光情報

 

 

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8:40、伯母子岳登山口から今日の熊野古道ミッションがスタートだ。何とか雨に追いつかれる前に、難所を通り抜けねばならない。曇りの為、少し寒いが、すぐに心拍数が上がりだし、身体が熱くなってくる。


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9:26、1.3㎞登り、待平(まちだいら)屋敷跡に到着。雨はまだ降ってきていない。ここに一軒お屋敷があったそうだ。お寺があったとも、茶屋があったとも言われているらしく、熊野古道を通る人々をここで見守っていた人がいたのかなと想像する。

 

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10:35、休憩。気が付くと今日も高い所に登ってきていた。民宿で会った、民俗学を研究しているという男性の話を時折思い出す。山を登ることで自分を見つめなおしたり、呼吸に集中していることは瞑想すると同じことだと話していた。娘さんと一緒に、この地域に残っている集落で色々な話を聞いたり、調査をしているそうだ。

 

熊野古道を歩きだして、十津川温泉を出発してからほとんど人と会わない生活をしている。時折山から見える、山間の集落に住んでいる人々はどんな話を語るのだろうか。聴く人、残す人が居なければいつか消えていく、人の生きてきた歴史や独特の習わしはどんなだろうか。

 

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10:40、水ヶ元茶屋跡に到着。弘法大師の祠。天気はまだ曇り。太陽が出ないせいか、とても寒く、立ち止まると体が途端に冷えてくる。


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11:35、上西家跡に到着。予定所用時間は、1時間40分なのだが、3時間かかってしまった。3日目にもなると疲れが出てくるためだろうか。ここはかつては、旅籠だったそうだ。米や魚を運ぶ人々や高野詣でをする人々が泊まったり、とても賑やかな場所であった。今はその気配は全く感じない。静かな初冬の山だ。

 

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少しずつ天気が崩れてきた。立ち込める霧、山々が呼吸しているみたいだ。「蟲師」のギンコもこんな山々を歩いたのだろうか。みかんや干し芋、黒にんにくを食べて栄養補給。この辺のみかんは本当に味が濃くて甘い。

 

休憩を終り、少し歩き出すと本格的に雨が降ってきた。すぐに雨具を着て、リュックにもカバーをかける。ここから、雨具を打つ雨音と雨具のこすれるゴワゴワ音、自分の呼吸音とともに歩く。何だか一人で騒がしい。

 

通常、熊野古道は、伯母子岳の頂上は通らないことになっている。峠を通過するだけなのだが、今年の夏の台風により、迂回路が設置されており、通常ルートを通ることができなかった。

 

地図に無い迂回路はなかなかの難所だった。人があまり通っていないのか、土がふわふわとしていて、歩きづらい。道は分からないので、ロープや木々に結ばれている黄色やピンクのテープを目印に急坂を登る。ここはなだらかな道だったはずなのにと見上げても、雨が顔面を打ちつけるだけだ。霧が出てきて、視界が狭い。

 
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13:00、伯母子岳山頂(1,344m)に到着。100mも余分に登ってしまった!

 

晴れていれば、大峯の山々を見渡す爽快な景色が楽しめるそうだが、今日は真っ白だ。それはそれで幻想的であるけれども、スティーブンキングの「ミスト」やゲーム「SIREN」を思い出して、背筋がぞっとする。怖い想像はいけない。こんな状況では本当によくない。こんなへとへとだったら、まじで何からも逃げられない。

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13:15、どんどん雨が強くなる。木の下で雨をしのぎながら、お昼は立ったまま終了。寒い。防水の手袋は既にびっしょりだ。雨具はゴアテックス素材の為、本体は無事だ。


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すぐに出発。雨で濡れた落ち葉や隠れて見えない石ころで転ばないように注意しながらひたすらに下山。景色を見ている余裕はなかった。

 

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14:50、萱小屋跡に到着。ほっと一息。屋根があるって安心するんだなとしみじみ思い、皆としばし歓談。

 


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15:30、人の気配がする場所まで下りてきた。とても安心するのだが、肝心の人がいないのが怖い。平日だし、皆働いていらっしゃるんだろう。夜になると、どこからともなく赤く光る目の人々が、集落を徘徊するという、そんな恐怖展開ではないはずだ。

 

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濡れたアスファルトの急坂を半歩歩きで、ゆっくり下りていく。山道より滑る。

 

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ああ、よく見ると、民宿からのお迎えの車がいるではないか!(右下)

 

15:40、本日のミッションも無事に完了。7時間かかったが、途中の大幅な遅れを取り戻したのが驚きだ。やってみれば何とかなるものなのだ。

 

夕食のぼたん鍋が疲れた体にしみた。民宿のお兄さんは鍋奉行だったよ。


ぼたん鍋

 

泣いても笑っても、明日は最終日。足の皮は今日も耐えた。これはもう高野山へ無事にたどり着くしかない。

 

Day4、最終日に続く

 

寒い日が続きますが、皆さま風邪などひかれないようご自愛くださいませ。有難うございました。