ぴこのねごと

さあ、つかの間の現実逃避へ。 旅とフラと時々経理の話

熊野古道 小辺路 高野山 大団円 Day4

今日、私たちを濡らした雨は、夜になっても降り続いていた。濡れたものを部屋の洗濯ロープにかけて乾かし、雨音を聞きながら、眠りについた。

 

 

高野山でケーキを食べよう!」

出がけに、リーダーが言った一言で、俄然やる気が出た。普通に生活していたら、普通に食べられるもののはずなのに、ケーキがとても甘美なものに思えた。ここ数日、甘味と言えば、みかん、干し芋、かぼちゃ等だったためだろう。

 

 

本日の行程は、16.8㎞、所用時間6時間40分である。

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大股 林道合流

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出典

高野山(高野町)~水ヶ峰(奈良県野迫川村)|和歌山県観光情報 公式サイト わかやま観光情報

 

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本日のクライマックスはスカイライン合流から丁石の間のここだろう。登らせておきながら、高野龍神スカイラインの途中から一気に下らせて、一気に登らせる。こういう道が突然現れると、へとへとな旅人の心を折るのだ。

 

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昨日の雨が嘘のように上がり、悔しいほどに何事もなかったようないい天気だ。

 


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8:40、大股登山口より出発。お決まりの厳しい熊野古道への入口。もう分かっている、ここは半歩歩きで呼吸を整えながらゆっくり進むのだ。

 

落ち葉や石が濡れているけれども、泥で歩きにくいわけではなかった。ただ滑るのでひたすらに気を付けながら登る。空気がしっとりしている。

 


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9:10、ふと見れば、既に高い所にいるのが分かる。文明が遥か彼方に見える。またしばらくは、文明とお別れかと思ったのだが、


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9:12、しばらく車道を歩き、車道から再び山道へ戻る。

 

どうやら今日の行程は、車道と山道を交互に進んでいくらしい。車道ができたため、熊野古道 小辺路の途中の道は失われてしまったそうだ。

 

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9:45、車道を歩く。珍しく、リーダーが後ろを歩いている。結構距離があるように見えるのだが、すぐに追いつかれる。ロンドンの街中を普通に歩いているかのように、山道も車道も関係なくすいすいと歩いている。仙人なのかな。


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10:40、林道タイノ原からの眺め。緩やかな道が続き、昨日の様な悲壮感は全く感じない。この度始まって以来、話をしながらの楽しい道のりだ。

 

熊野古道で会社の愚痴は全て、山道に解き放とうと思っていたのに、あまり出てこない。この3日間歩いている間にか霧散してしまったのだろう。


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10:55、水ヶ峰分岐に到着。予定所用時間は2時間10分なので、ほぼ予定通りに進んでいる。熊野古道を歩きだして初めて「何これ、楽しい!」と思った。


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山道も本当になだらかで、歩きやすい。おまけに天気も素晴らしい。

 

ここは明治中期に多くの宿屋があったそうだが、交通網等の変化に伴い、巡礼者の往来が減り、農業を行うにも高地で条件が悪かったため、1952年に完全に廃村となってしまったそうだ。集落跡には、旅籠・屋敷・神社等の石垣、共同墓地らしい墓石が残るだけである。


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11:09、熊たちのテリトリーを抜け、高野龍神スカイラインに合流する。

 

この地点に出る少し前に、一人で山道を歩いている女性と出会った。熊よけの鈴の音が、とても澄んで美しい音色だった。歩くペースで鈴は揺れて、静かな山道をキラキラした金粉が風に舞っているような音だった。


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12:00、大滝集落に到着。ここでお昼のお弁当を食べる。リーダーの上着のポケットから、みかんが5個も6個も出てきて、思わず笑ってしまった。彼は、いつも休憩時にはみかんをくれたのだが、ここから出ていた事に今日気が付いた。

 

高野山まで、約5㎞、この辛かったような、楽しかったような旅も終わりに近づいている。


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13:10、今日のクライマックスの急な下りが始まった。アスファルトの下り道は本当に膝に響く。高尾山の一号路のアスファルトの下り坂をほうふつとさせる。

 

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 下ったと思ったら、再び登らせられる。分かっていた、それは分かっていた。気持ちが負けたら身体が動かなくなる。大丈夫、大丈夫。3日間歩いた今日なら、何とかなると分かっている。そして、この先にはケーキが私を待っているのだ。

 

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 13:45、薄峠に到着。高野山まであと3㎞弱。


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終りの気配があるけれども、「まだだ、まだ終わらんよ」とシャア様ボイスが回る。落ち葉と枯れ木と小石の道を登る。


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14:20、ろくろ峠に到着。車のわだちが、もう熊野古道が終りに近い事を感じさせる。昔の巡礼者もそんな気配を感じながらこの道を歩いただろうか。


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家が見える。人の住んでいる気配がする。もうすぐだ。


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14:30、金剛三昧院入口、ついに小辺路の終点に到着した。5時間50分の道のりだった。あんなに求めていたゴールなのに、終わりは突然に訪れた。

 

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柿のケーキと豆腐のレアチーズケーキとコーヒーで乾杯。同行者の一人とはここでお別れになった。その時、旅の終わりを強烈に認識し、思わず泣いてしまった。

 

72㎞、3泊4日をかけた熊野古道 小辺路の旅は無事に終わりを迎えた。歩き終わったからって、何かが強烈に変わるわけではないが、少しだけ、「意外と体力あるな」と自分に対する認識が変わった。

 

1ヶ月が経ち、すっかり東京生活モードに戻ってしまったが、時折思い出す。あの時の静けさ、自分の呼吸や鼓動、熊野古道で出会った人達の事を。あの場所の日常が、私の非日常なのはとても不思議な感覚だ。

 

私たちは過去を積み重ねて生きていく。その過程の中に小さな旅がいくつもあり、困難に見えても始めに決めていたゴールにたどり着けることもあるし、別の分岐に進むこともある。一つの旅が終われば、また次の旅が始まる。それを繰り返し、息絶える日まで進む。

 

だから、いつも自分の心に問いかける。

 

「さあ次はどこに行こうか?」

 

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2018年も有難うございました。これからも当たり前だけど当たり前ではない毎日を、大事に生きていきたいと思います。来年の大きな旅は、ノルウェー、北極圏 スピッツベルゲン島です。シロクマと戯れたい。楽しみ。

 

皆様良いお年をお迎えください。

 

今週のお題「2019年の抱負」