ぴこのねごと

さあ、つかの間の現実逃避へ。 旅とフラと時々経理の話

怖い浮世絵 太田記念美術館~夏のひんやりさんぽ

 立秋も過ぎて暦の上では秋のはずですが、依然暑いですね。今も昔も、怖い話で涼を感じようという試みは同じようで、妖怪、怖い話業界は、まだまだ宴もたけなわです。

 

【怖い浮世絵に惹かれ】

 今回は、太田記念美術館で行われている「怖い浮世絵」展と三省堂書店池袋本店で開催された「怖い浮世絵 怖いトークナイト」に行って参りました。太田記念美術館は、原宿ラフォーレの裏手にある、浮世絵を専門に展示している美術館です。

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 怖いトークナイトでは青幻舎さんから出版された「怖い浮世絵」を執筆された太田記念美術館主幹学芸員の渡邉晃さんが、浮世絵の見どころを解説してくださり、その解説を元に浮世絵を鑑賞できたので怖さと理解が増しました。

 

 江戸時代~明治にかけての浮世絵が中心に展示されているので、当時の大衆が興味あったもの、浮世絵師が感じたことを想像するのはとても楽しいです。

 

 渡邉さんがおっしゃられるには、「江戸時代の怖い浮世絵は、1.幽霊、2.化物、妖怪、3.血みどろ絵」だそうです。これにプラスアルファで「火事や噴火等の自然災害」も挙げられます。現在の怖いものとさほど変わらないようなラインナップです。

 

 歌川国芳、歌川国貞、月岡芳年、歌川系の弟子ちの浮世絵が展示されていました。浮世絵の素敵だと思うところは、怖い場面であるけれど、どこかユーモラスだったり、洒落っ気があったり、皮肉が織り交ぜられたり、写真とは違う味があります。トークナイトで聞いた話と実際の感想を織り交ぜて、初心者なりに浮世絵を紹介してみます。

 

【気になった浮世絵と背景】

1. 国芳と国貞

 歌川国芳は、猫好きとして有名です。踊る猫又の絵はとても可愛くて、Bunkamuraで以前開催されていた「ボストン美術館所蔵 俺たちの国貞 私の国芳」展で猫又の付箋まで買ってしまった始末です。

ボストン美術館所蔵 俺たちの国芳 わたしの国貞(くにくに) | Bunkamura

 

 その踊る猫又が描かれている国芳の「五十三駅 岡崎」と国貞が同じ系統のモチーフで描いた「東駅いろは日記」の猫又を是非比べてほしいです。国貞の猫又は、主観的にみて可愛くない。踊っているけど、愛くるしくない。国貞と国芳の猫愛の温度差の違いにくすっと笑えます。もちろん絵のタッチやお二人が感じ取ったものと絵の表現も全然違うので、その差の見比べも楽しいです。

 

2.月岡芳年とエロスと郵便報知新聞

 月岡芳年の作品も多く飾られています。彼の浮世絵はスプラッタが苦手な私には、凝視できないものも多くありました。迫力がすごいです。写生を大事にしていたという背景から、これを本当に妊婦を天井からつるしたのか、顔の皮を剥いでみたのかなど気になります。

 

 たびたび出てくる赤い腰巻で上半身裸という女性の絵は、その絵の女性の肌の白さとの相乗効果で、残酷なシーンの絵ではありますが、何とも艶めかしいです。表現者は、そのエロスの趣味まで衆人環視のもとにさらすことになってしまうので、大変ですね…。

 

 郵便報知新聞のニュースの挿絵が、いくつか展示されていて面白かったです。怖い話トークナイトで解説を聴いて、このシリーズにグッと来てしまいました。酒好きのグデン徳さんが生き返った話とか、自分から離婚したのに、自分の都合で復縁を迫り断られて逆切れの話とか、今でもありそうなニュースです。

 

 特に大工の棟梁の奥さんのニュースが記事と挿絵とのギャップに完敗です。毎晩12時ごろになると真っ黒な坊主が現れて、奥さんの口や顔を嘗め回すそうです。すったもんだの挙句、「しばらくしたら、最近は出てこないのでいなくなったのかなあ」というぼやっとした、サゲなしの記事にも関わらず全力120%の不気味な挿絵を提供していて、「芳年、真面目か!」と突っ込みたくなりました。

 

 「怖い浮世絵」展のポスターで頭を抱えて絶叫しているおばあさんは、芳年の「和漢百物語 頓欲ノ婆々」の舌切り雀の意地悪おばあさんです。大きな葛籠を開いたら妖怪が出てきちゃったのシーンが描かれているのですが、出てきた妖怪が可愛いのにおばあさんが失神寸前とうギャップが面白くて、ポスターに採用したそうです。浮世絵のこういうお洒落な所に惹きつけられます。

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3.源頼光と四天王

 結構人気のシリーズなのでしょうか。某妖怪展でも何作かお目にかかりました。酒呑童子を退治したり、土蜘蛛と戦ったり、ヒーローぽくて格好いいです。

 

 四天王の一人、渡辺綱の羅城門での茨木童子との戦いを描いた芳年作品の「羅城門渡邉綱鬼腕斬之図」は、躍動感があって格好いいです。漫画の一コマのようで、豪雨の表現も大胆です。

 

 そんな彼らですが「破奇術頼光袴垂為搦」(キジュツヲ ヤブッテ ライコウ ハカマダレヲ カラメントス、読めない…)では、熊とうわばみが戦っているのを観ている隙に、大盗賊 袴垂保輔に自分たちの荷物を奪われてしまいます。熊とうわばみの戦いは、袴垂保輔の奇術だったそうです。海外の日本人観光客みたいで、親しみがもてます。荷物を取った後、袴垂氏がどうなったかは知らないのですが。

 

 青幻舎「怖い浮世絵」によりますと、「大蛇が一橋慶喜、熊が徳川家茂、頼光が井伊直弼を現していて、将軍継嗣の問題を風刺しているとの見方」もあるそうです。

 

 ちなみに四天王の一人、坂田金時は、成人した金太郎だそうで、銀魂とは何の関連もなくて残念でした。

 

【最後に】

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 大田記念美術館は、場所柄外国人観光客も多く、こんな残酷な絵を見せて大丈夫なのかしらと思いました。隠してもしょうがないので、これもクールジャパンじゃと堂々としていればいいかなとも思いました。「怖い浮世絵」展は、8/28(日)まで開催しています。

 

 次回は、「KUNIYOSHI HEROS!!」ということで、血沸き肉躍る水滸伝の世界で、国芳が大暴れするそうです。水滸伝なのに、顔が和風で面白そう。行くなら予習で水滸伝を読んでいった方が楽しめそうですね。

www.ukiyoe-ota-muse.jp

 

 最後に怖い浮世絵で、縮こまったハートを浮世絵ラテで元に戻して、フィニッシュです。池袋 三省堂書店1階で注文できます。絵柄はランダムだそうです。

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 それでは、また次のおさんぽでお会いしましょう。